漢方薬の副作用
漢方薬を飲むにあたって、副作用が気になるという方は多いのではないでしょうか。西洋医学の薬と違い、漢方薬にはどのような副作用があり、どうなると症状が出るのか…というのは気になるところですよね。
今回は、漢方薬によって引き起こされる副作用について、ご紹介いたします。
漢方薬に副作用はある?
漢方薬は一般的に薬効(効きめ)が穏やかなものが多いことから、「副作用がない」と思っている方がいらっしゃるようです。しかし、それは間違いです。
漢方薬も体質や服用の仕方、生薬そのものの薬理学的作用などを原因として、副作用は起こり得ます。効果のある薬に副作用が伴う可能性があるのは、ある意味で当たり前のことと言えます。
漢方薬の副作用が起きる仕組み
漢方薬は、生薬(しょうやく)と呼ばれる天然の薬草や鉱物が組み合わされています。それらはさまざまな症状に効くよう配合されているのですが、中には何らかの要因で体に悪影響を及ぼしてしまうものもあります。
特に、甘草(カンゾウ)、麻黄(マオウ)、大黄(ダイオウ)、山梔子(サンシシ)といった生薬は、いろいろな症状に効果的なのですが、服用のし過ぎなどで薬効が転じて毒となるケースがあります。
漢方薬は基本的に複数の生薬を配合してつくられているため、副作用が出た際、原因を特定するのが少々やっかいという側面があります。もし、漢方薬を飲んで何かおかしな点を感じたのであれば、すぐに担当の漢方医に相談するようにしましょう。
漢方薬の副作用による症状
漢方薬における主な副作用の症状には、以下のようなものがあります。
- 皮膚症状:発疹、痒みなど
- 胃腸症状:食欲不振、胃部不快感、膨満感、胸やけ、腹痛、下痢、便秘など
- 精神神経症状:頭痛、めまい、のぼせ、ほてり、しびれ、不眠など
- その他:むくみ、血圧の上昇、間質性肺炎など
中でも、先に挙げた4種の生薬によって引き起こされる可能性のある症状について紹介します。
甘草(カンゾウ)
甘草は抗炎症作用・鎮痛作用・解毒など多くの効果があり、漢方処方の7割以上に含まれている、生薬の中で最もメジャーなもののひとつです。
しかし多量に摂取し続けると、むくみや高血圧といった症状が出る「偽アルドステロン症」を引き起こします。偽アルドステロン症は、甘草の主成分である「グルチルリチン酸」の作用で起きることが分かっています。
甘草は1日の摂取量を把握しないといけないのですが、あまりに多数の処方に含まれていることなどから、気づかないうちに多く摂取してしまっていることも。
特に、小柄で体重も軽い高齢女性などの場合は注意が必要です。
麻黄(マオウ)
麻黄は、中枢神経や自律神経(交感神経)系に作用して活発化させる働きをする生薬です。新陳代謝を活発にして体を温めたり、気管支を広げて咳を鎮めたり、頭をスッキリさせて集中力を高めたりする効果もあります。
脂肪燃焼効果もあるので、ダイエットをしている方であれば注目したい生薬と言えるでしょう。ただ、飲み過ぎると肝臓や心臓に過度な負担をかけ過ぎてしまいますし、スポーツ選手の場合はドーピングに引っかかることもあります。
大黄(ダイオウ)
大黄は、便秘に効く生薬です。「センノシド」という成分が腸内細菌によって分解されることで大腸を刺激する物質に変化し、排便を促すというわけです。
ただ、飲み過ぎることで効き目が薄れていくだけでなく、腸管粘膜細胞を傷つけ、大腸の状態悪化にもつながってしまいます。
山梔子(サンシシ)
山梔子はクチナシの果実を乾燥させたもので、炎症を鎮めたり精神を安定させたりする作用があります。
しかし、山梔子に含まれる「ゲニポシド」という物質が、腸管に血液がうまく巡らなくなる「腸間膜静脈硬化症」という病気の原因となることが分かっています。
山梔子を含む漢方薬を5年以上飲み続け、便秘や下痢などの症状が出ているのであれば、すぐに病院へ行くことをおすすめいたします。
小柴胡湯(しょうさいことう)と「間質性肺炎」
小柴胡湯(しょうさいことう)は、慢性肝炎に効く漢方薬として、非常に重宝されてきた漢方薬です。
しかし、この漢方薬を服用することによって極まれに「間質性肺炎」が発症することがありました。
この肺炎は、肺の中で肺胞間を隔てる「間質」という薄い部分が炎症を起こし、本来柔軟性のあるべき間質が硬く厚くなるというもので、これによって呼吸困難に陥り、死亡してしまったという例もあります。
しかも、その全容はいまだ完全に解明されてはおらず、「間質性肺炎」の治療方法も現時点では確立されていません。
ただ、小柴胡湯が「間質性肺炎」を引き起こす頻度は10万人に4人という、非常にわずかな確率だと言われています。
この病気が発覚し、小柴胡湯に行き着いたのも、小柴胡湯が非常に効果の高い漢方薬であり、多くの人が小柴胡湯を服用していたからだと言えるでしょう。
漢方薬で副作用が起きるケースとは
ここまで、漢方薬の副作用について触れてきましたが、多くの漢方薬局に人が訪れていることから分かるように、決して危険なだけのものというわけではありません。
確率の面から言えば、漢方薬は薬の中でも比較的安全な部類に入ります。
それでも副作用が起きてしまうケースには、以下のようなものがあります。
指導された用法・用量を守らない
どんな薬でも、飲み過ぎると体に負担をかけてしまいます。「漢方薬は安全」というふうに思い込み、一度にたくさん飲むようなことをしてしまえば、薬は毒へと転じます。
決して用法・用量を自分で判断せず、漢方医のいいつけ通りに服用するようにしましょう。
飲むべきではない薬を飲み続ける
漢方薬は基本的に、同じ病気であっても飲む人の体質などを見極め、オーダーメイドで生薬を配合していきます。
つまり、西洋医学のように決まった薬、というのはないわけです。
そして、飲む薬の種類や量なども、症状や体質によって変わっていきます。
漢方薬を処方してもらう際は、その都度処方を見直してもらうことが大事です。
体質や体調に合わない、そのときに飲むべきでない薬を飲み続けていては、体にとっては逆効果です。
漢方薬に関する過信
漢方薬は、正しく処方されたものを正しく飲み続ければ、効果が期待できる薬であることには間違いありません。
実際に漢方薬のおかげで症状が緩和、快癒したという方であれば、なおさら信頼感は強いでしょう。
しかし、だからといって漢方薬を過信し、体の不調を漢方薬以外に求めるというのは危険です。
冒頭でも書きましたが、「漢方薬に副作用がない」という考えは間違っています。
もし漢方薬を飲んで体調に異変を感じたら、遠慮せずに漢方医に相談してください。
その際は症状だけでなく、生活習慣や他に服用していた薬などを包み隠さず話すようにしましょう。
正しく漢方薬と付き合うことが大事
ここまで副作用について書いてきて、少々漢方薬のイメージが変わったという方もいらっしゃるかもしれません。
実際、漢方の生薬の中には、なぜその作用が出るのかが完全に明らかにはなっていない、というものもあり、いまだ研究が続いているというのが現状です。
ただ、先人たちの知恵やさまざまな取り組みによって、漢方によって西洋医学で治らなかった症状が改善しているケースがたくさんあるというのも、またひとつの事実です。
漢方薬の薬効を期待して服用するのであれば、決して自分で判断せず、信頼できる漢方医に任せるようにしましょう。