男性の不妊症
ここでは漢方への期待度が高い不妊症の改善でも、その効果が注目されている男性不妊への効能について、とりまとめてご紹介していきたいと思います。
男性不妊症へも期待がもてる漢方の効能
「不妊症の原因はあくまでも女性であって、男である自分には関係ない」と思っていませんか?
確かに、妊娠・出産をするのが女性である以上、不妊の原因は女性にあると考えている人は少なくありません。しかし、世界保健機構(WHO)が1988年に発表した調査結果によると、
- 男性が原因:約25%
- 女性が原因:約40%
- 男女両方に原因:約25%
不妊の原因は上記のようになっています。[注1]
不妊で悩んでいる場合、50%の確率で男性にも原因があるわけです。妊娠は、男女両方の生殖機能が正常に働くことで起こります。
「不妊の検査や治療を受けるのが恥ずかしい」と感じる男性は多いですが、男性が積極的に協力しない限り子供を授かることはありません。
世界保健機構WHOや日本産婦人科学会による不妊の定義は、「子供を望んでいて避妊をしていないにも関わらず、1年間妊娠していない」こと。不妊はかなり身近な問題です。さらに、女性の妊娠リスクは年を重ねるごとに上がります。
男性不妊の原因や漢方のメリットを知って、不妊症への対処をいち早くはじめましょう。
男性の不妊の原因
男性の不妊症は、大きく以下の2種類にわけられます。
- 性機能障害
- 精液性状低下
性機能障害の原因
性機能障害とは、要するに性行為をしてもうまく射精できない状態のことです。心因性のストレスや怪我の後遺症、加齢による男性機能の衰えによって起きるEDや、膣内射精障害などが代表的な性機能障害とされています。
また、糖尿病は軽度でも勃起障害を起こす病気です。進行すると精子そのものをつくる機能が低下してしまう、無精液症などに発展する場合もあります。
動脈硬化や過度の飲酒・喫煙が原因で血液の循環が滞り、勃起不全を起こしてしまう場合もあり、人によってどのように対応すべきか異なる点が難しい症状です。とくに、心因性のものや生活習慣からくる性機能障害は、薬を飲んだり手術をしたりしても解決するとは限りません。
禁酒喫煙や適度な運動など、地道な生活習慣の改善が男性不妊の解決につながる場合も多いです。
精液性状低下
精液性状低下とは、精子の質や量、動きなどが何らかの原因で低下している状態のことを指します。簡単に言うと、精子が健康な状態ではないということです。じつは、男性不妊の約9割が造精機能障害だとされており、
- 無精子症
- 乏精子症
- 精子無力症
など、さまざまな分類があります。困ったことに、精液性状低下、造精機能障害の原因はよくわからない場合が多いです。先天的に精子にふくまれるDNAが一部欠損している場合もあれば、ホルモンの関係で精子が弱っている場合もあります。
幼い頃にかかったおたふく風邪が原因で造精機能が低下しているというケースもありますし、温度の高いサウナや風呂が悪影響を及ぼしているのではといった話もあるほどです。
はっきりと造精機能障害の原因がわかっている場合は、病院で投薬等による処置を受けることもできます。ただ、造精機能障害による男性不妊では、規則正しく健康的な生活を心がけてもらい、精子の回収術等を使って人工授精や体外受精を行うといった対処になる場合が多いです。
西洋医学では、原因がわからない問題に対処できません。だからこそ、男性不妊で漢方が注目されています。
妊娠には質のよい精子が必須
妊娠は、女性の卵子に男性の精子が接触することで起きる現象です。乏精子症や精子無力症等の問題を抱えていたとしても、質のよい精子があれば体外受精等で着床させることができます。
言い換えれば、精子の質が悪い場合、人工授精や体外受精等をしてもうまく着床しないため、妊娠には至りません。つまり、男性はできるだけ精子の質を上げるような行動を取る必要があるわけです。
男性不妊の原因がはっきりしていれば、手術や投薬によって対処することができます。しかし、原因不明の男性不妊になっている場合はどういった対処をすればよいのでしょうか。
ストレス・加齢・飲酒・喫煙が精子の質を低下させる
造精機能障害の多くは、原因がわかりません。ただ、2011年に国際的な論文雑誌の「Fertility and Sterility」で発表された論文において、「どういう生活習慣や行動・要因が男性機能に悪影響を与えるのか」が検証されました。[注2]
学会等で発表される論文は、それぞれどれだけ信用できるかが違います。たとえば、男性不妊の原因を検証した論文で、被験者が3人だった場合と30万人だった場合では、どちらのほうが説得力をもっているかは言うまでもありません。
そこで、「Fertility and Sterility」の論文では、1970年から2011年にかけて発表されてきた60本近い論文を取り上げ、その内容を検証しました。論文の信頼性はかなり高いと言えるでしょう。
論文は非常に長いので、簡単に結果だけを抜き出して紹介すると、
- 心理的なストレスは精子の質を下げるだけでなく、正常な精子の造成を妨げる可能性がある
- 加齢によって精液量が減っていく可能性がある
- 飲酒には精液量を減らしてしまうリスクがある
- 喫煙は精子の質を全体的に低下させる可能性がある
以上が結論です。精子の質をキープするために、できるだけ早く過度の飲酒や喫煙をやめ、ストレスを減らすことを意識しましょう。とはいえ、飲酒や喫煙は個人の努力や専門外来の利用で解決を目指せますし、加齢は人間の力で防げるものではありません。
加齢・飲酒・喫煙への対処はひとまず横に置いて、考える必要があるのは「ストレス対策」です。
心理的なストレスは、精子の質を悪くし、さらに遺伝子の欠損等が起こった異常な精子を増加させてしまうリスクをもっています。論文では、男性がストレスを受けた場合、造精機能をつかさどる「テストステロン」という男性ホルモンの分泌量が下がることを問題としていました。
つまり、男性不妊ではストレスを解消し、テストステロンを高く維持する必要があるわけです。
男性の不妊におすすめの漢方
体内のバランスを整え、活力を維持する漢方は、男性不妊症のように「原因がわからないトラブル」への対処を得意としています。
エビデンス(科学的根拠)が不足していると指摘しつつ、日本産婦人科学会や日本生殖医学会でも男性不妊症への対処として漢方を紹介しているほどです。[注3][注4]
なお、漢方薬局等でおすすめされる漢方は、本人の体調などによって変わります。体質や悩みの種類によっても推奨される漢方は違うので、漢方を買うときは必ず専門家のいる薬局に相談しましょう。
ただ、目安としてどのような漢方が推奨されるのかを知っておくことは大切です。男性不妊の方におすすめしたい、代表的な漢方を2つご紹介します。
補中益気湯(ほちゅうえきとう)
疲労や食欲不振、全身の倦怠感などを覚えている場合におすすめの漢方です。EDで悩んでいる男性に推薦されることの多い漢方でもあります。
日本東洋医学会の調査によると、補中益気湯の摂取によって精子の運動率が有意に増加したという結果も出ているようです。[注5]
- 人参(にんじん)
- 黄耆(おうぎ)
- 白朮(びゃくじゅつ)
- 大棗(たいそう)
- 甘草(かんぞう)
などが配合されています。
柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
多種多様な種類がある漢方の中でも、「精神安定剤」と呼ばれる漢方です。日常的なストレスで動悸がする、夜なかなか眠れない、精神的な不安を感じているといった人におすすめされています。
- 柴胡(さいこ)
- 半夏(はんげ)
- 桂皮(けいひ)
- 竜骨(りゅうこつ)
- 牡蛎(ぼれい)
- 生姜(しょうきょう)
などを配合した漢方です。
[注1]NPO法人Fine:不妊について
[注2]Fertility and Sterility:Male fertility: psychiatric considerations[pdf/英文]
[注3]日産婦誌59巻9号研修コーナー:3.難治性男性不妊症への対応[pdf]